※この記事は2016年に書いたものを、2026年にリライトしました。
ランサムウェアに感染したパソコンを復旧していて、気づいたことがあります。Wordのファイルは全滅していました。Excelも全滅でした。でも、一太郎のファイルだけ残っていた。
なぜだと思いますか。
ランサムウェアとは何か、最初に整理します
ランサムウェアとは、パソコン内のファイルを勝手に暗号化して「元に戻してほしければ身代金を払え」と要求するウイルスです。感染すると、デスクトップにある写真も、Wordの書類も、Excelの家計簿も、すべて開けなくなります。
「身代金を払えば元に戻るのか?」と聞かれます。払っても戻らないことがほとんどです。相手は犯罪者です。約束を守る理由がありません。
感染したパソコンを復旧する作業の中で、不思議な光景を見ました。WordのファイルもExcelのファイルも暗号化されています。でも、一太郎のファイル(拡張子.jtd)だけ、手つかずで残っていた。
WordとExcelが狙われる理由──世界共通だから
WordとExcelは世界中の人が使っています。マイクロソフトのオフィス製品は、ロシアでも、中国でも、アメリカでも、同じファイル形式です。だからランサムウェアを作る側は、これらのファイルを暗号化の対象に入れます。狙う価値があるからです。
クレジットカードも同じです。日本のカードも、アメリカのカードも、番号の形式は世界共通です。だから世界中の詐欺師が狙います。
標的になりやすいものは、世界共通のものです。
一太郎のデータだけ残っていた
一太郎はジャストシステムが作った日本語ワープロソフトです。使っているのは日本人だけです。ファイルの拡張子は.jtd。Wordの.docxとは別物です。
ランサムウェアを作るハッカーは、一太郎のことを知らない。あるいは知っていても、日本人にしか売れないソフトのファイルを暗号化する意味がない。だから.jtdは暗号化対象に入っていない。
結果として、一太郎のファイルだけ無事でした。
ウイルスに強い理由が、品質でも設計でもなく「誰も狙わないから」というのが、なんとも言えない話です。
一太郎の.jtd は暗号化対象外。今日も一太郎は平和です
あんのたん (@ANNotunzdY2) 2015年12月7日
2015年の時点でもそう言われていました。10年以上経って、今も状況は変わっていません。
筆王・筆ぐるめも無事だった
年賀状ソフトも同じです。筆王・筆ぐるめのデータも、ランサムウェアに無傷でした。
年賀状は日本独自の文化です。1月1日に一斉に届く、あの習慣は日本以外にありません。だからこれらのソフトも、世界のハッカーには存在すら知られていないに等しい。
一太郎で書いた文書、筆ぐるめで作った年賀状リスト。これらがランサムウェアの網をくぐり抜けるというのは、笑える話のようで、笑えない話でもあります。
一太郎を作った会社は、今どうなっているか
ジャストシステムという会社の話を少し書きます。
一太郎を作ったこの会社、2026年3月期の売上は515億円です。前の年から15%以上伸びています。
ただし、その主力は一太郎ではありません。スマイルゼミという子供向けのタブレット学習サービスです。保護者なら聞いたことがある方も多いと思います。
「誰も使わないから安全」なソフトを作っていた会社が、まったく別の事業で500億円を超える売上を出している。一太郎は捨てずに、今も販売し続けながら。
ワープロソフトで始まり、教育で伸びた。一太郎はその会社の出発点として、今も残っています。この話は、なかなか読ませます。
2026年の今、この話はまだ通用するのか
正直に言います。「まだ通用している部分もあるが、状況は変わりつつある」です。
以前は日本語が複雑だったため、日本語を読み書きできないハッカーにとって日本は標的にしにくい国でした。今は高度なAIを使えば、自然な日本語のフィッシングメールを書いたり、日本語のシステムの弱点を探したりすることができます。国際ハッカー集団Qilinが「日本のセキュリティは世界最悪」と声明を出したのも、この流れの中にあります。
一太郎のファイルが対象外というのは今のところ変わっていないと思います。でも「日本は関係ない」という時代は終わっています。
それでも今日も、一太郎ユーザーのパソコンを触りながら思います。
Wordが全滅する中で、一太郎だけが無事だった。その光景は、しばらく忘れられそうにありません。
セキュリティのことが不安な方は、パソコン本舗にご相談ください。


